BIMの実用化へ
地方ゼネコンとして
いち早くBIMの実用化を推進
地方ゼネコンとして
いち早くBIMの実用化を推進
建築物をコンピューター上の3D空間で構築し、企画から設計、施工、維持管理に関する情報を一元管理するBIM(ビム:Building Information Modeling)。国土交通省では、我が国建設業界においてICT施工を積極的に牽引する観点から「2023年までに小規模工事を除く全ての公共事業にBIM/CIMを原則適用する」ことを決定した。佐田建設は、地方ゼネコンとしていち早く、BIM導入に動いた1社である。
MEMBER
- Michio Kogure
木暮 道生
建築本部 設計部 次長
設計BIM担当
一級建築士 - Mitsuru Arai
新井 暢
建築本部 技術部 技術課長
施工BIM担当
一級建築士
1級建築施工管理技士 - Mariko Tajima
田嶋 真理子
建築本部 設備部 設備工事課 工事課長
設備BIM担当
建築設備士
1級電気工事施工管理技士
1級管工事施工管理技士
地方ゼネコンとして
いち早くBIM推進室を設置
1つの建築物のライフサイクルには、企画から意匠・構造・設備・積算・施工・維持管理まで多くの工程があり、実に様々な専門家や事業者が関わっている。従来は、それぞれが独自にCADデータや図面、情報の作成を行っていた。
これに対してBIMは、全ての工程で3Dモデルを共用し、建築情報を一元管理する。そのため、どこかの情報を一つ修正すると、関係する全てのデータが自動で修正されるほか、施主側も3Dモデルによりイメージがしやすくなるといったメリットが期待できる。
佐田建設では、BIMが建設案件の入札や建設プロジェクトを進めるうえで重要な基盤になると判断し、地方ゼネコンとしていち早く、2015年に導入を決定。翌2016年7月には、建築本部にBIM推進室が設置された。
本社ビルの3Dモデル構築で
BIMの可能性を検証
BIM推進室に招集されたのは、設計部の木暮、技術部の新井、そして設備部の田嶋の3名である。それぞれが当時をこう振り返る。
「BIMとは何か、雲をつかむような思いでした」(木暮)
「3次元で何でもできるツールというイメージでした」(新井)
「手間がかかりそうだと思いました」(田嶋)
当初は誰もがBIMについて漠然としたイメージしかなく、作業負荷と効果についても疑問を感じていた状況だった。
そこで、まず取り組んだのがBIMソフトを使った佐田建設本社ビルの3Dモデルの構築である。結果、BIM推進室では次のような声が挙がることになった。
「2DCADでは気づけなかった干渉がわかるなど、後工程で問題の起きない設計ができる」
「3Dモデルからレンダリングが容易にでき、図面を見るのに慣れていない人でも出来上がりのイメージがつかめ、説明がしやすくなる」
「2Dでは高さがつかめないため、配置した鉄骨と設備配管などが重なってしまうことがあるが、BIMではそれが回避できる」
実際の業務でBIMを試用し
社内の認知度や関心をアップ
可能性を検証できた推進室では、次のステップとして既存の建物や施工を控えた物件でのBIM利用を試し、事例実績を増やしながら社内の各部でプレゼンテーションを行うと同時に、現場で施工管理や設備工事に携わる若手社員を中心に、BIMの講習会を開催していった。
BIMでは、建物モデルを分割して設計、施工、設備のそれぞれで作業を行うことができる。また、内装のデザインや配置の検討、外観パースの作成、外光や照明のシミュレーションもリアルな3次元空間での視覚化も可能になる。3人が当時の手応えをこう語る。
「3Dモデルは描き込めば描き込むほどリアルにできるが、入力や作業の手間を考えれば、どこまでにするかを見極めることも重要」(木暮)
「ある現場から、カーテンウォールの施工であらかじめ納まりを検討したいがサポートしてくれないかという要請があって、そのビルのエントランスを3Dモデルにして持ち込み、良い検討材料を提供できた」(新井)
「空調設備をどのように配置するかも、BIMの3D空間で空気流のシミュレーションを行えば最適な位置を探り出すことができると感じた」(田嶋)
推進室の活動で、社内におけるBIMへの認知と関心が徐々に高まることになった。
役割を果たした推進室を解散し
設計、施工、設備の各部門で展開
推進室の設置から3年後の2019年、佐田建設は栃木県であったBIM活用が条件の案件に初めて応札した。残念ながら選定には至らかったが、木暮が「BIM導入企業として、BIM案件の入札に自信を持って臨める体制ができた」と振り返るように、大きな一歩になった。
こうして一定の成果を上げた推進室は、導入の役割を終えたことから2020年に解散。設計部門、施工部門、設備部門のそれぞれで、具体的に取り組むことになった。3人がその取り組みを次のように語る。
「頭が柔軟な若手がBIMに関する基本的な操作スキルを習得したので、企画段階でのイメージ化や内観のイメージ化、さらには設備、構造体との干渉など問題点の検証に活用しています」(木暮)
「施工部門についても、やはり若手中心の展開になっています。30代半ばまでの社員への初期講習を行ないました」(新井)
「設備部門では、設計と施工の両方で、ほぼ全員がBIMに活用できる3DCADの『レブロ』を扱えるようになりました。業務でも、照明配置等のシミュレーションで活用しています」(田嶋)
業界トレンドをとらえ
BIMの実務活用を推進
国土交通省が2010年に「官公庁営繕事業におけるBIM導入プロジェクトの開始」を宣言し、建設業界におけるBIM導入への関心が一挙に高まったが、欧米に比べると、その動きは遅れていると言われる。しかし、ここにきて国土交通省が公共事業へのBIMの原則適用を2年前倒しするなど新たな動きも出てきた。少子化による労働不足や働き方改革の推進等を考えても、BIMの活用は建設業界の大きなテーマになることは間違いない。各部門における今後の展望を3人がこう述べる。
「BIMの普及にはソフトの整備など課題もありますが、実務の中で効果的な使い方を模索しながら少しずつ広げていきたいと思っています」(木暮)
「引き続き、若手への定期的な講習を行なっていきたいと思います。今後の目標は、実務への活用です。例えば、納まりの具合は現状、2次元の図面を使っていますが、3次元でチェックするようにしていきたいですね」(新井)
「現状、BIMソフトの『レブロ』を使いこなせていますが、ソフト自体が機能追加などバージョンアップしていきます。それにしっかりキャッチアップして、より効果的に活用していきたいと思っています」(田嶋)
佐田建設では、業界トレンドをとらえ、着々とBIMの実用化を進めていく考えだ。
COLUMN
コラム1言葉を越えられるイメージ力
2DCADによる設計図面の作成では線画なので、描いている設計者もイメージしづらい面がある。しかし、BIMによる3Dモデル構築では、壁のデータを作成した段階で画面には立体で表現されるので、日本語がわからない外国人の方でもイメージができる。つまり、BIMには言葉を越えられるイメージ力があると言える。
コラム2建築BIM推進会議(国土交通省)
官民が一体となってBIMを推進するために、国土交通省が2019年に設置した。建築BIMの活用・推進について官民のさまざまな観点で幅広く議論し、日本にBIMが根付くための方針を検討。これまでに「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン」等を発表している。